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特集

「NIPPON GALLERY MARUNOUCHI」オリエンテーションラウンジにある
高さ2.7m×幅13.5mの高精細LEDウォールの前にて

いのちの輝きを実感できるパビリオン

アニメーション監督
メカニックデザイナー
ビジョンクリエーター
2025年 大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー

河森 正治

慶応義塾大学在学中に原作者の一人として携わったTVアニメーション『超時空要塞マクロス』、そこに登場する三段変形メカ、『バルキリー』のデザインも担当。劇場作品『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』で23歳の若さで監督に抜擢される。『マクロス』シリーズ以外にも『地球少女アルジュナ』、『アクエリオン』シリーズ、メカニックデザイナーとして、『機動戦士ガンダム0083スターダストメモリー』、『攻殻機動隊』、『サイバーフォーミュラ』、『アーマード・コア』、ソニーのエンターテインメントロボット“AIBO”『ERS-220』、日産デュアリスCMメカ『パワード・スーツ デュアリス』、ソニースマートウォッチ『wena』のデザインをするなど幅広く活動。2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、テーマ事業「シグネチャーパビリオン」のプロデューサーの一人に任命。

TOPPAN株式会社 情報コミュニケーション事業本部

高橋 隼人

カメラマンとして入社後、高精細印刷による記念本などのクリエイティブディレクションを担当。高精細映像に関する技術開発とデジタル情報の資産化の観点から、地域活性化・観光立国をテーマに、高精細映像技術とライツビジネスの社会実装ヘ向け「Meet Japan!Ⓡ」を活動開始。さらに、映像技術の拡張としてストレスケアを促進する超臨場感環境ソリューション「Natural WindowⓇ」を開発。
こうした映像技術を軸に、ハイレゾなどの高精細音源と聴覚との融合など五感を駆使して「感性に響く」コミュニケーションメソッド、クロスモーダルクリエイションやバイオフィリックデザインなどの空間環境の研究・開発をおこなっている。
4K映像に関する講演および寄稿多数。

【公益社団法人 映像文化製作者連盟 理事・技術委員】
【知的財産管理技能士(3級)】
【公益社団法人 日本アロマ環境協会 公認 アロマテラピーアドバイザー】
【一般社団法人 日本救急医学会 正会員】

河森正治プロデューサーが手がける「いのちめぐる冒険」パビリオンのコンセプトは「ここに共に生きる奇跡」。生きとし生けるもののいのちのつながりを表現し、「人間中心」から「いのち中心」へのパラダイムシフトの大切さを伝えていきます。それをTOPPANの高精細映像技術がどう伝えていくのか。答えるのは技術開発とクリエイティブ活動に携わってきた高橋隼人。その先にある未来についても二人が熱く語り合いました。

いのちは美しいだけではなく凄まじい

――「今、ここに共に生きる奇跡」を伝えたいと思ったきっかけについてお話いただけますか?

河森: 今回の万博の全体テーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」だと聞いたときに気になったのは、「いのち輝く」のが人間に限定されて解釈されていないかという点でした。私としては人間だけではなく、生きとし生けるものすべて、生態系全体としての「いのち」の輝きを表現したいという思いがありました。
 では「いのちが輝いている姿」とはいったい何かを考えると、僕のイメージに近いのは、30年以上前に中国の奥地を一人旅したときに見た光景なんですね。そこは電気さえほとんど届いていなくて、もちろんテレビもなかった。そういう環境で育った子どもはものすごく生き生きしていた。初めて「人間って生き物だったんだな」と思うぐらいショックを受けたのです。
 それ以来、少数民族や先住民族にも興味を持って訪ねるようになったのですが、そのうち野生動物にも興味が広がっていきました。そこで繰り広げられているいのちは、美しいだけじゃなく、凄まじいんですね。そんな感覚が伝えられたらなと思っています。

高橋: 今を生きる人のいのちが輝いていないというわけではないんですよね。

河森: もちろんです。ですがテクノロジー社会に住んでいる自分たちのいのちも輝いているはずだけど、輝いているということを感じる力が弱くなっているのではないかと思います。輝けている実感を持てていないというか。だから輝けているという実感を得られるようなパビリオンにしたら、まさに「ここに共に生きる奇跡」を体感できるのではないか。それをスタートラインに考えていきたいと思っています。

――「いのちめぐる冒険」パビリオンでは、どんな体験をしてもらいたいですか?

河森: サバンナに行ったときに体感したことなんですが、そこにいるだけで、自然の循環が手に取るように見えるんですね。野生動物が糞をしたら、そこに虫がやって来て食べて、その虫を鳥が食べに来る。そしてその鳥が運んだ種が芽をふく……そういういのちの循環を、都市生活にどっぷり浸かっていると、ほとんど見る機会がないし、関心を持とうとさえしなくなる。また、自分たちが口にした食べ物がどこでつくられているかは産地表示でわかるにしても、産地がどんなところでその生き物が、どんなふうに生きていたのかは分かっていない。こんな風にいのちがどこから来てどこへ行くのかが見えにくい社会に住んでいることで、封印されている感覚があるんじゃないかと思うんですね。それを「いのちめぐる冒険」のパビリオンで体験してもらえたらと考えています。

高橋: 封印されている感覚を解いてあげるわけですね。

河森: そう、少し鈍ってしまっているだけだと思うんです。それを取り戻すことができたら、世界は素晴らしいものに見えてくるでしょうね。ただ、本当に感覚を取り戻そうとすると、パビリオンに来るだけでは時間不足で、何日もかかります。パビリオンでその感覚の一部を体験して、興味を持ったならば、実際に野山の中に行ったり、身近な自然を観察したりする中で感性を培ってもらえたらと思います。

高橋: 河森さんがいまおっしゃったことに、われわれも強く共感しまして、持っている技術をご提供させていただきたいということになりました。

正しく伝える印刷テクノロジーで
「いのちのめぐり」を表現する

――今回の展示では、地球から3万6000km離れた宇宙を飛行する気象衛星「ひまわり」が撮影した地球の画像をリアルタイムに映像化して、巨大なLEDに表示する「宇宙の窓」を企画しています。どんな技術をどのように活かそうお考えですか?

高橋: 河森さんが指摘された「鈍ってしまった私たちの感覚」を甦らせるのをコンセプトにしています。そのときに強みになるのは、当社が印刷会社として120年以上にわたって培ってきた印刷テクノロジーです。印刷というのは、正しい情報を過不足なく、そのまま伝えることを一番大切にしています。私はカメラマンとして入社して、カタログ撮影をすることが多かったのですが、色や大きさなどを本物と一緒にしなければいけない。こうした技術をひたすら磨いてきた印刷会社が、印刷物のみならず、印刷テクノロジーに紐付いた技術で、ディスプレーやカラーマネジメントをして現物を伝える。それによって河森さんのプロジェクトに活かしていけると思ったのです。
宇宙からミクロの世界までを表現するつもりですが、河森さんが目指していることは、写真だけでは伝わらない。味と同じで、体感しないとわからないので、難しいけれどもチャレンジしがいのあるプロジェクトです。

河森: 「宇宙の窓」は、ほぼリアルに近いような地球の10数分前の映像、あるいは太陽の映像、水の映像、生き物の映像など、色々な映像を使っていくのですが、いのちがめぐる感覚を体験してもらえたらいいなと思ってます。
 パビリオンのメインコンテンツの一つとして、XRシアターをつくります。ゴーグルを着けて、現実世界とデジタルな仮想世界を融合させるVR/MR技術を使って体感していただく。実際にゴーグルを着けてみると、今までのものよりも断然解像度が違いますね。裸眼で見るよりもピントが合う。自分もPlayStation🄬VRの開発のときに、デモ用のコンテンツを二つほど作ったので、VRはもともと好きなんですが、本当にすごく体感的に面白いものが作れそうです。こういうデバイスを使えば、いのちのめぐり、いのちがどこから来て、どこへ行くのかという「変容の物語」をうまく伝えられると思います。

高橋: ゴーグルを通してできるのは、恐竜のようにいまはいないものを体感できること、あるいは自分がアリになったような世界を感じられること、また高解像度の風景などです。ゴーグルを着けて見るCGの世界は、ここに柱があるんだということを「理解」をするのではなくて、例えば崖のそばまで行ってすごく怖い思いをするというように「体感」するものなんですね。それによって、「いのちのめぐり」を体感して、なんで私たちは生きているのかということを、すごく深いところで感じてもらえたらうれしいですね。

河森: 今回、いろいろな技術を見せていただいたんですけども、これほど高い精度の映像で見せられるのであれば、〝臨界点〟を超えられそうだなと思いました。自分はエンタメ系にいるので、表現が臨界点を超えられるかというのは重要なポイントなんですね。臨界点を超えないとどんなに努力しても、すぐに忘れ去られてしまうからです。
ある程度臨界点を超えたときに初めて伝わるものがある。それまでは知識にしかすぎないものが、臨界点を超えると感情に響いたり魂に届いたりするようになる。TOPPANさんの映像技術を使って、リアルな映像を使うことで、単にリアルな感覚を感じさせるのではなく、その背後に潜むいのちの輝きなどに繋がる何かを表現できるんじゃないかなと思えたんですね。
 それにしても、自分にとっては凸版印刷というイメージが強かったので、これまで説明をうけてきて、TOPPANという会社がさまざまなことに事業を展開されているのは驚きでした。時代を先読みして、紙媒体以外の分野にどんどん進出されている。従来の印刷会社の枠を〝突破〟されているのが素敵だと思います。自分も突破するのが好きなので、すごく共感しました。

感覚が研ぎ澄まさせるメディアを開発する

――お二人は今回のプロジェクトで得た経験や技術を、万博後、どう活かしていきたいとお考えですか?

高橋: データの電送速度や容量に上限があることで、映像や画像のクオリティを抑えなければいけなかったのですが、通信の高速化によってそれらが改善してくると思います。限りなく現実に近いものを再現できる時代がくるのはそう遠くないような気がします。6年後の2030年頃には実現すると思うので、そこを意識していきたいです。
 実は私、日本救急医学会の正会員になっているんです。もし誰かが倒れて、それをスマートフォンでその人の状態を救急隊員や医師に電送したら、初期対応が早くなり助からなかった命も助かるようになるかもしれない。ただ、いまは法規制があって、救急から医師へ映像や画像は送れないんですね。紙で渡すことになっている。スマートフォンがまた落とし穴で、各社のデバイスによって色の出具合が違う。本当は顔色が悪いのに、デバイスによっては画像処理をかけて伝送されてしまい、その画像をみた医師は「いや、悪い感じはしませんけど」となってしまうことがある。それを私たちが持つ技術で正確にデータで送れるようにすれば医療に役立つことができます。いま広島大学や順天堂大学、北里大学の先生と共同で研究をしていますが、データの高速化と法改正などによって、実現する可能性があります。われわれの技術で社会を良くしていくことができればと活動しています。

河森: 素晴らしいですね。僕は今後、より一層、感覚や感受性が活性化されていくような創作を心がけていきたいですね。アニメや実写、それからテレビ、映画、ゲームといったジャンルやメディアを問わずに。それは、人間の生き物としての感覚が鈍るのを補ってくれる作品ではなくて、その作品を体験する事を通して感覚が研ぎ澄まされていくようなものが創れたら理想的だなとは思っています。AIはこれからさらに発達しますが、そんなとき人間にとって大切になるのは感性や感受性だと考えています。それこそが全ての生き物をつなぐ、いのちの輝きの実感になると思いますので。

高橋: ぜひ、新たなステージでご一緒できることを期待します。今日はありがとうございました。

対談場所となった「NIPPON GALLERY MARUNOUCHI」正面エントランスにて

対談場所となった「NIPPON GALLERY MARUNOUCHI」正面エントランスにて

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万博・IR推進室 チームエキスポ共創事務局
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